ああとにあつく!ぷかぷか(8)(文学シリーズ短編その4) 終章(1)

 ぷかぷか(8)(文学シリーズ短編その4) 終章(1)

 東京の吉祥寺から帰った後は、当時、忙しく、お兄ちゃんと私とお局の三人で現場をこなしていて、時には、何か気になることもあったが構ってはいられなかった。叔母ちゃんも大阪や東京のなじみの工務店や左官屋などを手配し、芸術家の卵には、三人が指定したレプリカを作成させ、例によって、来店した関係者や芸術家の卵には、内緒でブランデーを接待し、ばたばたと、半年ぐらいが過ぎた頃だっただろうか。

 突然、 象さん似の大男の唄歌いとあん娘(こ)の二人が尋ねて来たのだった。何か、他にも気になることがあった筈だと、少しは気がかりが残ったが、その時は、深く思案もせず、二人とも、未だ元気だった。

 その日は、たまたま揃っていたお局とお兄ちゃんと五人で、二人が滞在していたホテルで食事をとった。確か、お兄ちゃんは気を利かせたのか、早く帰ってしまったと思う。

 象似の唄歌いは、本当に優しく大きな男だった。私の方が年下であるからではなく、本当に、安心が出来て頼れる印象を受けた。そして、併せて、壊れやすい、硝子のような、ナイーブな内面を持つのだ、との印象もあった。兎に角、初対面であったが、気に入ったのである。意気投合したのである。

 お局とあん娘はぐいぐい飲んで会話も弾み、姉妹のようであった。確か、二回目の対面なのに、お局は珍しく実の妹に許すように寛大であった。そして、あん娘はいたずらっ子のようであった。しかも、意識した。

 そして、新しい発見があった。あの娘は像似の男と似たもの同志なのか、夜店の硝子細工のような、ある意味の脆さへの懸念をも持っているのであった。

 ラウンジに移ったが、あん娘がピアノで、象さんが唄うと象さんはたいした人気であった。そして、びっくりしたのはお局が、確か、「朝日の当たる家」を唄った事だった。「ザ、ハウス、オブ、ザ、ライジング、サン」とエラ・フィツジェラルドも唄っていて良い歌だと思ったことがあった。

 お局のマンションには馬鹿に大きなステレオセットがあったが、お局の唄を聞いたのは初めての事であった。そうだ、そのステレオセットでエラ・フィツジェラルドのその唄を聴いたのだった。そして、お局の歌った「朝日の当たる家」とは娼家のことなのだ。

 もう一つ、びっくりしたが象さん似の大男の唄歌いは、殆ど酒を飲めないことだった。ラウンジが閉まり、部屋に移ると、早々とダウンした。私は、まだまだいけたが、そろそろ限界に近付きつつあった。

 象似の大男の唄歌いはダブルのベットのカバーの下で伸びており、私もその横で暫くまどろんだ後で目覚めると、お局があん娘と抱き合ったまま寝ているのだった。おかしな寛容の気持ちと投げやりな気持ちを同居させ、確か、私は再び寝入ったのだ。

 「起きなさいよ」と私を起こすお局の声が聞こえ、大の字に寝ていた私にホテルのメモ用紙を突きつけたのだ。そこには、あん娘の字で、お姉さんありがとう、とあり、大男の歌い手の、不思議な字体の、チェックアウトは済ませますので、との追加のメモもあったのだ。

 そして、夢のような気もするのだが、最後には、ベットでお局を、その後で、しっかり抱き寄せたような気もするのだった。部屋を出る時、「あの二人、夫婦ではなさそうよ」とお局がポツリと云った。

 (つづく)

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