ぷかぷか(4)(文学シリーズ短編その4) 第2章 事務所でのこと(2)

   ぷかぷか(4)(文学シリーズ短編その4)
      第2章 事務所でのこと(2)

私がクライアントの訪問から帰ると、お局が云った。

 「あの娘(こ)、やって来たわ、事務所の中を勝手に歩きまわり、設計図などを引っぱりだし、面白い娘ね、これを残していったわ」と、私のスケッチブックを開いて示した。叔母ちゃんが、にやりと笑った。

 「どうも、奴の仕事に興味を持ったようよ、雇ってあげたら」とも云った。
 
 示されたデザイン帳には、彩色のリビングの室内のデザインがあった。なかなか良いセンスのものであった。それで、お局が機嫌がよかったのだ。お局は才能がある者には敬意を示し、優しいのだ。

 「でも東京に帰るそうよ」と、招待状も差し出した。東京の吉祥寺にあるライブハウスでのものであった。期間中の東京への出張予定はなかった。お局には内緒で、疲れるが、日帰りで暇があったら顔を出してみようか、とも思った。

 「今度の仕事には、モネの睡蓮の絵が欲しい、「ゆがんだ絵」のものがいいのだが」というと、解った、というように「お兄ちゃん」が顔を上げずに、手を上げた。彼が知り合いにレプリカを作成させるのだ。「叔母ちゃん」がコーヒーのなかにブランデーをたらして出してくれた。

 「奴よりは才能があるし、伊達に芸大は出ていない」と、お局は「お兄ちゃん」の知り合いのレプリカ作者にも優しく、大層な制作料を支出するのである。だから、わが社出入りのレプリカ作者には、叔母ちゃんのブランデー入りコーヒーとともに、お局は人気があるのである。
 
 私は、モネの池だけの睡蓮の絵の中に歪んだ感覚の絵が1枚あるのだが、お客の性格によっては、それを壁にかける。モネには作成の意図があるのだろうが、一連の睡蓮の絵の中で水面が、と言うよりは絵そのものが歪んでいる1枚があるが、永らく眺めていると、私は気が落ち着かなくなるのである。

 ところが、個性のある客が、酷く、喜んでくれたことがあったのだ。そのようなお客にはこの絵を使う。お客様第一なのである。そして、あん娘のデザインにも、これに通ずるものがあることに気付いていた。

 私の会社、「愛の芸術インテリア ー至高の室内装飾などー」、を開店させ、お局を雇ったものの、当時、仕事は一切なかった。それは覚悟の上であった。早くても6ヶ月はかかるであろうと予定していた。

 既にある、豪華マンションの転出入に伴う室内装飾、マンション建設に伴うモデルルームの受注を重点にしようと考えていた。富裕層の個人客の確保も狙い、豪華マンションの住人名簿を買ったり、新築については調べて、メール作戦を展開しようと考えていた。

 お局は、この仕事の開拓の面でも辞めた会社のつながりから色々手を打ってくれたのだ。やり手であった。それに、彼女の生花の師範の免状を使い、生け花教室をこの事務所で勝手に開設したのである。

 大阪市域から外れた駅近くに、事務所を選んだが、1階は人の出入りもなく、ひっそりとした訳の解らないミシン販売会社で、しゃれた螺旋階段のついた二階が、我が社である。1階のミシン屋の玄関先の殆どの部分は、わが社のしゃれた螺旋階段が占拠している。

 その螺旋階段に生け花教室の看板を設置すると、自身でチラシをつくり、1週間ほど付近の住宅地を歩き回っていた。「この辺にはあまりお嬢様が居そうもないわ」との独り言が印象に残っている。

 間もなくして、水曜日の午前、午後に生け花教室が開設され、私は、水曜日には花の香りと女たちの華やぎを秘かに楽しんでいた。当時は、インテリアデザイナーではなく、生け花の師匠さんの旦那で通っていたのである。

 勿論、水曜日には、得意の手練手管を使い、「事務所」から「教室」に室内を書き換えてしまうのだ。やり手のお局は、今では、事務所近くに「愛の芸術インテリテリア -生け花教室倶楽部ー」を経営しているのである。

 (つづく)

この記事へのコメント

JimmyNaimb
2017年10月12日 21:31
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