無念の息子(文学シリーズ、ショート)

無念の息子(文学シリーズ、ショート)

テーマ:男としての屈辱を 潔(いさぎ)よしとしない死での訣別

<起章>
 
 私は女としては背が大きい方です。背の高い女は知らず知らず背を丸める癖が出て、この事を自覚していますので胸を張ることに何時も注意をしております。ですから、多くの背の高い女が背を丸めていますが、私はそうではないのです。そして、私の夫は当然私より背が低いと思っているのです。しかし、二人並んで測ったことはご座いません。

 長男は私に似て背が高く、中学生からバスケットボールをやっておりました。妹は背が高いということでもなく、スポーツには興味がないようです。私どもは、極、平凡な普通な、この日本にはいくらでも転がっている一つの家族でありました。

 長男が自殺するまでは。

<承章>
 
 私は、極々、普通な日本のサラリーマンであると言っても良いであろう。化学薬品を扱う企業で、同期のもの5人とも仲良く、不思議に5人そろって、なんの変化もなく営業をしたり、会社の中での事務をしたり、それでも、会社は中国とマレーシアに支店を持ち、急成長するでもなく、塗料専門の会社に特化しているので、その事で、景気などに影響を受けることも少なく、着実に業績は伸ばしているのです。

 会社は一族が、固く、し切っていて親族である同期の一名は既に常務ですが、偉そうにするわけでもなく、夜の付き合いは相変わらず出てきますし、同期会は和気あいあいなのです。

 長男が自殺するまでは。

<転章>
 
 私お引越しなんて絶対に嫌です。お兄ちゃんが死んでしまったことはとても哀しいけど。お引越しする理由なんてどこにもありはしないわ。でも、あんなに朗らかに振舞っていたお兄ちゃんが死んでしまって、たかが、たかが、ビンタぐらいで、暫く、落ち込みながら考えたわ。お兄ちゃんどうしたのって。

 でも、理由みたいなものに気づいたけど、私だったら、もっとしぶとく生きるよ。女だけど。

<結章>
 
 告訴を受けて警察も捜査に乗り出した。だが、故意を取るのは難しいだろうと、警察の友人が語っている。暴行罪には過失犯はなかった筈だ、とも彼は語った。父親は、毎月の同期生会に参加したが黙りこくっていて、4人は、理由を知らないので不審に思っていたそうである。彼は、彼なりに、息子の自殺までする生き方について思い当たり、自身も反省したのである。

 妹は、相変わらず元気で、立ち話などしている近所の主婦がいると、近付いていって、フン、とうそぶくようなことを暫くしていたそうだ。

 母親はいつものように背筋を伸ばして、何事も、なかったように過ごしているそうだ。そして、息子の遺書に次のような一節があったそうだ。僕は、キヤップテンを外されるかどうか、判りませんが、バスケから外されることは、絶対に許せない、と。

 作者注:上の文章は、作者の文学的な意図に基づく妄想である。

 (おわり)

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