ああとにあつく!愛しい女(2)(文学シリーズ ショート(24))

 愛しい女(2)(文学シリーズ ショート(24))

 遊んで来いと兄貴から金を貰った。オレは駄目な奴と自分でも思う。だから兄貴から好きなように使われている。子供の頃はガキ大将で根性だけはあった、と言うよりは能天気で時には頭にきて我を忘れる。

 貰った金で、最後かも知れないと思いつつ松島新地に遊びに行ったのだ。新地は、昔は、もっと大きかったそうだが、今では高架鉄道なども出来ていて、こじんまりしてしまったのだ、と兄貴と遊びに行った時に聞いた。

 松島での相手は無口で誰かに似ていると思った。ひょとしたらオレが小さいときに、チフスが流行って母親と一緒に死んだ叔母ちゃん似なのかも知れない。叔母ちゃんはことのほかオレを可愛がってくれたそうだ。そんな記憶もあって、思わず、結婚しよう、などと口走ってしまったためか、店が跳ねた後も女は付き合ってくれたのだ。 

 二人は恋人のように食事を取り酒を呑んだがその店やラブホテルでも女は無口であった。オレとなら結婚したいと思ったのだろうか。相手の女はオレより人生を知っている。どうしたらいいのだ、とその時は考えた。

 どうせ、どうなるか判らない事の前に、飛び込んだ松島の店での話しだから、とオレは軽く考えて納得したのだ。

 オレは鉄砲玉や。前のときのように兄貴からは相手の写真と住所のメモを渡され、兄貴は、「こいつは義理も人情もない極道の屑だから気にすることはない」、と言ったのだ。兄貴からはチャカを渡されて、「後には捨てろ」、言われたが前のものが残っている。これで2丁となったのだ。 

 兄貴とは舎弟分の杯を交わしているがオレは一匹狼だ。オレには子分はいないが、兄貴の組の者が、立ててくれてはいる。そのいきさつは、組の者と喧嘩になったときに、たまたま、兄貴がその場に出くわし、オレの狂いようを見た後に喧嘩の原因を知って、気に入ったようだ。オレもそんな兄貴の性分が気に入って杯をもらったのだ。

 どんな義理を欠いたのか知らない。どんなあこぎな事をしたのか知りはしない。鉄の鋲などが打たれた立派な門構えの玄関先で胸元を目がけて三発撃った。運転席から若い者飛び出してきたので、足に2発を撃った。

 小さい門からの出迎えの女房と小さな娘の顔が忘れられない。驚いて見開かれた目が忘れられない。

 無口な女が言った。どうしたの、オレは答えず、二人はどろどろになるまで何かを確かめ合った。女が再び言った。怖い目よ、どうしたの、オレは女房と娘の眼差しを思い出し、嫌だいやだと頭を振ったが、目からは涙さえ流れ出した。

 それを見て、女は、いいのよ、もう聞きはしないわ、とオレを優しく抱き寄せてくれたのだ。

 兄貴が言ったことがあった。親分は警察と真っ向対決する、だから安心しろ、つまり、オレを差出はしないと言う意味だろう、とオレはその時考えたのだ。

 女は涙を拭きながら言った。自首しましょう、その言葉を聴いて、オレは何故かそうする、と答えていたのだ。

 オレは兄貴に言った。自首したい、足も洗いたい、杯も返したい、と兄貴は承知してくれた。ただ、冷ややかに一つの条件を付けた。何があっても、組に迷惑を掛けるな、オレも昔は鉄砲球だったのだ、いつになく怖い目をして言ってくれた。

 オレは留置場で染みのついて壁に向き合い、女の来る日を指折り数えて待っている。時々は、殺した相手の女房と娘の眼差しも思い出すが、自首しましょう、と云って抱き寄せてくれた女の身体の温もりと、眼差しも忘れてはいない。

 Leyona - Toki No Sugiyuku Mamani (posted by BluesOyaz)
   http://www.youtube.com/watch?v=qTjGSIhQeNU
 *ブルース親父、音楽はさっぱりです。そして、何時もありがとうございます。

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 (おわり)

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