ああとにあつく!ぷかぷか(12)(文学シリーズ短編その4) 終章(5)

 ぷかぷか(12)(文学シリーズ短編その4) 終章(5)

 叔母ちゃんはあん娘のことを、必ず、彼女と言った。

 「彼女はこの歌がぴったりだと思うんだけど」と皆が昼飯を始めるころ、1枚のレコードジャケットと携帯用のプレーヤーを取り出した。見ると、唄歌いの大男の「踊り子ルイーズ」というレコードであった。レコードは、彼だけではなく、いく筋にも分かれた鈴のような細くて高い声の男と二人で歌っているのだが、あの娘と何故歌わなかったのだろうか、と私は思ったのだ。

 <西岡恭蔵 - 踊り子ルイーズ>  ~どなたかありがとうございます。~
  http://www.youtube.com/watch?v=R8AnIOtWsWM&NR=1

 二人は別れてしまったていたのだろうかと、何故だろうかとも、考えた。あん娘との二人にぴったりの唄ではないか、と考えたのだ。

 叔母ちゃんは、誰よりも大男の唄歌いに思い入れを持っていたのかもしれない。物憂い夜はブランデーを呑みながら、あの男の「ぷかぷか」を繰り返し一人で聞き、涙を流しているのかも知れないのだ、とも思ったのだ。
 
 「まさか、「ファンキードール」を彼と歌っている女性はあん娘ではないな」、と私はお局に念を押した。
 「当たり前でしょ」とお局は、相手にしてくれなかった。
  
 <Kyozo Nishioka - Funky Doll > ~どなたかありがとうございます。~
  http://www.youtube.com/watch?v=8vS8AeKWtdE&NR=1

 久しぶりの、新幹線での埼玉への社員旅行であった。当然、ブランデー持参であった。私は決して忘れてはいなかった。ブランデーのかすかな酔いの中で、お局の物思いに沈んだ顔を眺めながら、あん娘との夜を思った。甘味な愉楽の夜としてではなく、何故かそれは哀しげな思い出でに変質している事にも気付いていたのだった。

 東京駅では、お局のかっての、初仕事の「花の華のお店」からの豪華で大きな真紅の薔薇を受け取り、花束はお兄ちゃんが進んで持った。そして、新宿まで出ると西部新宿線に乗って狭山まで行った。

 季節はずれであるから閑散としているのだが、暖かい日差しの中で我々は彼の真新しい墓標の前に立った。多くの花が、新しい花が、ことさら大きくはない墓地に添えられており、彼の人柄を思った。

 お兄ちゃんは、それらの花は、もう花ではないもの以外は捨てず、我々の真紅の薔薇は、整理したそれらの花の端にそっと添えた。

 その様子を見てお兄ちゃんは、偉大と言うか、相当知られたな絵描きになるであろうと、思い、お局の方をそっと見た。お兄ちゃんはわが社のお抱え絵師になっていたのだった。私は偉大な画家は変わり者か人格者のどちらかである、とも思っていたのだ。

 我々4人は、それぞれの想いに沈み、さすが、如何にその場の空気を読む叔母ちゃんでも、ブランデーでの酒盛りを開始するわけにはいかなかったであろう。

 4人は下北沢のライブハウスによる予定があったのだった。


 <ご参考 (大分期間が開いたので)>
  
  ぷかぷか(11)(文学シリーズ短編その4) 終章(4)
    http://39383054.at.webry.info/201012/article_8.html
 
 (つづく)
 

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