ぷかぷか(5)(文学シリーズ短編その4)第2章 事務所でのこと(3) 

   ぷかぷか(5)(文学シリーズ短編その4) 
      第2章 事務所でのこと(3)
 
 「あっ、それにあの娘(こ)から、事務所への差し入れもあったのよ」とお局が云った。見ると当時としては珍しい、ナポレオンのブランデーであった。それで叔母ちゃんの笑顔が理解できたのだ。

 始めて、これも、当時としては珍しいバドワイザーを酌み交わし、あの娘(むすめ)と契りを交わしたのだが、その時、高級の部類のホテルだからと、ブランデーはないのか、と聞いた事を思い出した。ブランデーをぐい飲みすると、美味しいし、理性を麻痺させることも手っ取り早いのだ。

 事務所で、酒は叔母ちゃんが一番強い。次いでお局、お兄ちゃん、一番弱いのが私である。二十歳前後の頃は、おチョコ一杯でひっくり返っていたのだ。無理して飲んでいるうちに、飲めるようにはなったが、アルコールについては、底が浅いのである。

 私とお兄ちゃんが居ないときは、事務所にコーヒー用のブランデーが常備されているので、女性二人だけで何かにつけ祝杯を挙げていることは承知している。叔母ちゃんは、お局のお気に入りだ。機転が利き飲み込みも早い、洞察力が鋭いのだ。そして、奥座敷の奥方に仕える局のようだ。だが、ただ一人の社員なのである。

 お兄ちゃんは未だに良く解らない、芸術家なのであろう。国立芸大卒の芸術家なのだ。会社を立ち上げたとき、「職業安定所」では断られたので、「有限会社社員を求む」と新聞広告を出したのであるが、社名の「愛の芸術インテリア ー至高の室内装飾などー」で尋ねてきたのだ。有限会社についての理解もなく、社名の方だけで応募してきたのである。

 「これからの時代は、芸術の時代ではなく、商売の時代です」そう、お兄ちゃんは答え、「当分の間、給料も要りません」とも答えた。従って、採用したのである。確かに、日本はテイクオフして躍進を続けているときなのであった。だが、私は、そうではなくそれが前提となるが、これからが本当の芸術の時代なのだ、と返答した記憶がある。

 儲けることもさることながら、ここが、わが社のポリシーなのだ。

 私の夢だが、わが社では、家具などの置物にしろ、彫刻にしろ、絵画にしろ、レプリカではなく本物を取り揃えたいのである。時には、ブランデーで酔っ払って、4人で夢を語るのだ、気炎をあげるのだ。

 彼等はこのことのために、ブランデーを私に勧めるのである。兎に角、人間は夢を語ることが可能であれば、未だに開くべき未来があり、そのことへの約束の出発であり、語ることが失われると人生の終末が訪れ、余生を過去の思いでだけに縋るのである。

 どうも、お局は、時には、いまでは我が社の仕事にも寄与をしている「愛の芸術インテリテリア・・生け花教室倶楽部・・」だけではなく、美術、骨董品の古物商を営みたいとのたくらみを抱いているようなのだ。

 その為には莫大な原資がいる。だが、わが社の機能がプラスされれば、銀行から投資と言う意味で金は引き出せる。確実な目利きと信頼性も必要である。わが社にもスターを養成する必要がある、とボスであり社長である私は考えている。

 お兄ちゃんがものになれば売り出せると考えているのである。

 万博のとき親父を世話してくれたが、お局と私は同棲しているわけではない。彼女は、私より立派なマンションに一人住まいだ。結婚してもよい、彼女との間に子供をつくりたい、と時には考える。だが、きっかけと踏ん切りがつかない。

 彼女は、大阪でも有数の進学高校から、理由は不明だが、退職した大手の建築会社に就職した。そこで、社長の御曹司か親戚にあたる社員と恋愛し、相手のほうが急死したようなのである。私も、彼女とは同業の会社を退職していたのだが、元部下から聞いた話だ。

 この話から、彼女の口利きで我が社への紹介や注文が入ってくる理由を私は理解したのである。

 (つづく)
 

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック