ぷかぷか(3)(文学シリーズ短編その4) 第2章 事務所でのこと(1)

ぷかぷか(3)(文学シリーズ短編その4) 
   第2章 事務所でのこと(1)

  「どうしたの、余程、昨夜は頑張ったのね」とお局が、機嫌の悪いときにするのだが、私の顔を見ずに言うのだった。
  彼女は、昨夜のクライアントの接待は知っている。お局はこの事務所の功労者でもあり、私は弱いのだ。彼女は私に、いつもとは違う何かを感じたのであろうか、とも思ったが、
 
 「アバンチュールを楽しんだのだ」、と本当の事をそのまま私は言った。
 「あっそう」、と彼女は云い、素晴らしい笑顔で、やっと私の顔を見てくれた。

 私はいつも思う。この笑顔は、女として何もかも知っていて、私を許し、包み込んでくれる、優しい笑顔だ、そう思う。そして、この笑顔を私はなによりも気に入っているのだ。

 その後、私は、自分の机に向かって歩きながら、思考が飛んで、あん娘にとって、3万円はなんであったのだろう、と考えた。所属しているらしい曙という事務所の住所は東京になっていた。「唄歌い」、と言っていたが名刺にはタレントとなっていた。

 万が一尋ねてきて、お局に追い返されては、可哀想だと思い、引き出しから名刺入れの部厚いブックを取り出し、整理していない名刺の数枚と共に机の上に置き、昨夜、同行したクライアントに電話をして、差しさわりのない二、三の事を話題にしながら、お局が見てくれるだろうと、あん娘のものを横に仕分けた。

 確か、どうしょうもなくなったら尋ねて来い、と云った筈だ。何処か違ったところのあるあん娘を私は何故か気に入っていた。そして、お局は私の仕事の相棒なのだ。

 この事務所は、たった4人が社員の有限会社で、社長は私だ。お局は専務なのだ。もう二人、一人は芸大卒の「お兄ちゃん」、それに、事務手伝いと掃除の「叔母ちゃん」、これが我が社の一切だ。

 自分で事業をやろうと決めて、自分の退職金や友人からの借金、それに行政からの融資を受けて、掻きあつめた金で事務所を借り、社員募集をしたのだが、一番最初に面接に来たのが「お局」なのだ。

 色々聞いてみると、私よりは頭が良さそうなのだ。大手の建築会社の総務部人事課に居たのであるが、理由は良く解らないが退職し、「インテリアデザイナー」の資格を取りたいとの事なのだ。

 この資格は何故か、女性が多く取得をしている。ともあれ、うってつけの求職である。私の似顔絵を描かせてみると、満足が出来るものであった。煩くは退職の理由は聞かなかった。

 お局は美形ではないが、美しい。それは、彼女が、彼女の人生での悲哀や苦しみに耐え、そして、そのことを自ら考え、その結果が彼女の内なるものとして、まるで光り輝く真珠のように結実したからであろう。その光芒が溢れてくるから魅力があり美しいのだ。

 そして、お局は私を「奴」と呼ぶ、大阪万博のとき父親が來阪して、私のアパートに2、3日滞在した。その時、親父の面倒を見てくれたのだ。その時以来、私を「奴」と呼ぶようになったのだ。
 
 「奴は変わり者だ」と私のことを、父親が云ったそうである。おれは貴方にとって第三者ではなく、社長で、云うなればボスである、と言っても彼女は聞かなかった。

 「あなは「奴」がぴったりよ」と言いながら。、私を、「奴」、「奴」と呼び続け、「お兄ちゃん」や「叔母ちゃん」までが、私を「奴」「奴」と呼ぶようになってしまったのだ。

 (つづく)

 

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